見出し画像

Member's Blog "言語学の研究の果てに、エジプト・カイロで新しい日常を発見"

言語学専攻の大学院生だった僕は、約 2 年間アラビア語の勉強に励んでいた。そんな折、担当のアカデミックアドバイザーから夏期留学を勧められた。アラビア語を習熟するため、また地域特有のなまりに慣れ親しむためだ。フスハーと呼ばれる正則アラビア語は、授業で最もよく習うバージョンのアラビア語。だが実はどの国でも土地の人には話し言葉としては使われていない文語である。こうして僕はカイロ・アメリカン大学の講座に参加することにした。アメリカの基準からしてもかなり高かったが、奨学金で授業料をカバーすることができた。

ホテルライフ

学生は寮に入るのか、自分で部屋探しをするのかを決めなければならない。僕は自力で探してみることにした。現地の人に交じって生活したかったのである。最初の数日間は、カイロ中心部にある格安ホテルに部屋を決めていた。結局はアパートが見つからず、そこに 3 か月滞在することになったが...。だが長期滞在していたのは僕だけではなかった。アメリカ人ジャーナリスト、日本人ジャーナリスト(まるで図書館みたいな部屋だった)、レバノン出身の定年退職者、ギャップ・イヤー休暇中のオーストラリア人女性などさまざまな人がいた。破格の料金と、近くに政府機関や観光施設があったおかげか、他の部屋は地元の人や観光客でひっきりなしにあふれ返っていた。

国際色豊かで、活気に満ちた雰囲気だった。ある晩は韓国からの観光客と夕食を共にし、翌日は現地のイマーム(イスラム教の導師)とランチ、なんてこともあった。 夕方になると宿泊客やホテルスタッフがたまり場に寄り合う。007 の再放送を見ながらお茶や水タバコを嗜んだりした。僕にしてみたら、そこは大学の授業なんかよりもアラビア語やエジプト文化を学べる絶好の場所だった。

ホテルスタッフとの仲良しショット

古代エジプト

エジプトの魅力のひとつは、言うまでもなくその古い歴史にある。滞在中は数々の古代遺跡を巡ったが、特に印象的だったのは 2 か所。1 つ目は、ピラミッド。心惹かれる遺跡や、精巧に作られていると感じる遺跡はむしろ他にあったが、ピラミッドは単にそのスケールの大きさにうならされた。またピラミッドはカイロからすぐの場所にあるため、僕が初めて訪れた遺跡でもあった。しかもピラミッドまでは公共交通機関で行くことができる。それはそれで便利だし納得できるのだが、初めて行ったときは違和感がハンパなかった。「次は~コダイブンメイ~コダイブンメイ~」だなんて。ディナーは友人と一緒にピラミッドの目と鼻の先にあるピザハットで堪能した。これまたシュールさに拍車がかかった。

2 つ目は、シナイ山。モーセが神から十戒を授かったとされる場所だ。多くの巡礼者や観光客が夜のうちに山を登り、御来光を拝む。私もこの人気のアクティビティに参加した。たくさんのグループで一緒になってハイキングをしたが、決して楽な山道ではなかった。また登山中の大半は瞑想できるぐらいシーンとしており、これがなぜかその場にふさわしい気がした。完全なる無計画だったので、実は夏休みの荷物全部(教科書、ノートパソコン、服など)を持って登った。まだ若かったから、なんとか乗り切ることができたのだと思う(笑)。

僕たちは子どもの頃からピラミッドやシナイ山について本で読んで知っている。でも僕には、それらは現実に存在する物理的な場所というより、いつも抽象的な概念にしか思えなかった。まさか自分がそこに行ってじかに見ることができるなんて、夢にも思わなかった。実際に行ってみて、そこで初めて「世界は広いけど、どこにでも行けるし、何でもできる」という感覚を覚えた。(この感覚はもうしばらく前に忘れてしまったが(笑))

日常生活のありふれたできごと

とはいえ、僕にとってのエジプトは、単に並外れて大きいものを見に行くだけのところではなかった。日々のちょっとしたことが思い出される。道路を横断するときは車と車の間をすり抜けて踊るようにして渡ったこと、日差しが弱まった夕暮れ時にナイル川を歩いて渡ったこと、しつこい客引きを無視しながらホテルを出たこと、1 日に 5 回スピーカーから聞こえる美しい旋律と祈りの呼びかけ、新鮮なサトウキビジュースや野鳩のごはん詰め、フル・メダメス(ソラマメペーストを平たいパンに入れていろいろトッピングしたもの)、コシャリ(ガーリック風味のトマトソースがかかった多穀パスタ)など大好物グルメを思う存分エンジョイしたこと等々。

エジプトに赴く前の僕は、人生の大半をアメリカの中都市で過ごしていた。僕はアメリカの郊外に広がる都市を、その夏の間だけ、エジプトの首都カイロの雑踏に置き換えてみた。故郷の青々しさは、どこまでも広がる砂色の世界へと、木々に囲まれた比較的閑静な住宅街は、都会生活の間断ない喧騒に化けた。エジプトでは、新しい環境、ルールの中での生活を余儀なくされた。言うなれば日常生活からの解放である。旅を続けるようになったのは、この体験があったからこそだ。以後 5 年間、毎年夏になると、日本や 2 度目のエジプト訪問など、自国以外の国に訪れることになる。まあそれはまた別の機会につづることとしよう。

# 書き手プロフィール
名前:Tim Mahrt
部署 :Product Engineering Department / WTP Team
WOVN 歴:4 年


WOVNの製品・サービスをもっとよく知りたい方、サービス利用にご興味がある方は、以下よりご確認ください。
https://mx.wovn.io/