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デザイナーという仕事の呪縛
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デザイナーという仕事の呪縛

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私は呪われている。取りつかれている。私の思考すべては書体、色、レイアウトにこだわるスピリットによって支配されているのだ。でも怖がらないで。首を回転させて奇怪なカラーコードを口走ったり、空中浮遊したりはしないから。拘束具を片付けて、悪魔払いの神父に電話をかけるのをやめて。私は脅威ではないから。座って、リラックスして、私の話を聞いてほしい。

2003 年、私はロンドンで Web デザインのコースに入学し、新たなキャリアをスタートさせた。当時、ウェブデザインはかなり新しい分野で、今日われわれが知っているようなインターネットはまだ始まったばかりだった。ブラウザーは Internet Explorer が主流で、インタラクティブな Web コンテンツには Flash が使われていたそんな時代。YouTube はまだ存在せず、まだみんなが SNS 中毒になる前だった。私の集中力もまだ保たれていた。

最初の出会い
コースのカリキュラムには、Web デザインのほかに、コーディング、イラスト、ビデオ編集なども含まれていた。私はそれらすべての虜になった。コースが始まって数週間後、まだ物事のコツを学び、耽美なデザインの知識を一滴残らず吸収していた頃、デザインスピリット君が私のやわらかい脳の迷路をすり抜けて、潜在意識を乗っ取ったのだ。

デザインスピリット君は、一般的にデザイナーの潜在意識に宿り、強迫観念的なデザイン思考で宿主を圧倒する性癖がある。彼らは変幻自在で、悪魔のようなパラサイトの習性と、悪気のないイマジナリーフレンドの特性を併せ持つ。わかりやすくするため、「頭の中の声:エド」で、彼を「エド」と呼ぶことにしよう。

ある日、彼の存在に気づかず、自分の仕事に取り掛かった。彼はすかさず顔を出した。お気に入りだった、受賞歴のある Flash サイトのデザインを再現しようとムキになっていると、頭の中で囁き声が聞こえた。「ズームインして。下、もうちょい右。そう、もっとデカく。いやデカくしすぎ、うん、それくらい。で右回りに 45 度回転させてみ。ええやん!」と。

定着化
エドはその場を離れなかった。最初のうちは、グラフィックデザインのゲームみたいで楽しかったが、年月が経つにつれ、手に負えなくなっていった。エドは、ますます厄介で、融通がきかず、執拗になっていった。彼は、私がデザイン作業をしているときはもちろんのこと、そうでないときにも存在していた。私は物事をいままでとは違ったやり方でするようになった。物事の見方も変わっていった。そのうち、自分が手を付けたものをデザインしないではいられなくなり、あらゆるもののデザインを見ないではいられなくなった。

スプレッドシート、プレゼンテーション、仕様書、メモ、フローチャートなど、何でもある程度まではデザインしなくてはならないと思ってしまう。要素は均等に配置、列は同じ幅、テキストは階層性が必要、色は調和させる、コンテンツは左右または中央に配置しなければと。もうどうしようもなかった。でもそれだけではない。スクリーンを離れても、エドはそこにいた。

レストランでは、料理を選ぶどころか、ついメニューのデザインを分析してしまい、いつも注文は最後。日々の通勤時には、電車の中に貼られた広告をまじまじと吟味してしまい、降車駅を逃すことがよくある。テレビでは、ベベル、グロー、グラデーション、ダブルストローク、シャドーなど、スクリーンに散らばるあらゆる要素に目を奪われ、番組を純粋に楽しむことができない。「表紙で本の良し悪しを判断するな」という俗諺があるが、当然ながら私が本屋で本を選ぶ際のプロセスには全く無縁だ。

よくありがちなこと
いまでは、エドのやかましい存在にも慣れ、彼からの感覚アタックを軽く受け流すことができるようになった。家賃はすべて私負担だけど、まあ居ても OK ということにした。

このエドによる行き過ぎたデザインの感性は、謂わば本庄正宗の諸刃の剣。日常のすばらしいデザインをすべて会得できたり、エレベーターボタンの素敵な書体を見ただけでテンションがアゲアゲになったりする一方で、ショボいデザインを無視することができず、まるで無数の爪楊枝で何遍も目を突かれているような気分にもなる。時には圧倒されることすらある。

デザイナーであれば、厄介なエドに煩わされたことが一度はあるはず。私は特別ではないし、並外れたデザイナーでもない。私も他の人と同じようにインポスター症候群に悩まされている。これはほとんどの職業に共通していると思う。たとえばソフトウェアの開発者は、世界を0と1でしか見ておらず、頭の中の声がすべての決定を if/else 文で行っている。

WOVN のビジョンを借りれば、ある意味エドは私にとって黒子のような存在。いつもそこにいて、だれにもきづかれることなく、舞台裏で私に妖術をかけている。


# Writer Profile
名前: Val (ヴァル)
部署: Product Planning Department, Design Section
WOVN 歴: 2 年


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